「税理士業界はDXが遅い」——この話はよく聞きますが、具体的にどれだけ遅いのかを実感する機会が筆者にはありました。税理士同士の会話で「申告書を電子ベースでやり取りするなどのDX化を進めていく」という発言を耳にしたとき、思わず「何十年前の話をしているんだ」と感じました。
申告書の電子データでのやり取りは、他業種では2000年代に当たり前になっていた話です。それを2025年の今、「今後取り組むべきDX」として語る——これが税理士業界のリアルな現状です。本記事では、税理士業界のDX実態と、これが意味するキャリアへの影響を解説します。
筆者が感じた「ここまで遅れているのか」の瞬間
税理士業界に関わる仕事をしていると、他業種では当たり前のことが「画期的な取り組み」として語られる場面に何度も出くわします。冒頭の「申告書の電子化」もその1つですが、他にも驚いた場面は多くありました。
- 所内の別フロアへの連絡を「FAXで送ってから電話で確認」するフローが存在する
- 引き継ぎはExcelファイルをメールに添付が「標準的な方法」
- チャットツールがなく、急ぎの連絡はすべて電話
- 「ペーパーレス化を始めました」という事務所が2025年現在でも話題になる
これらは特定の事務所の例外ではなく、業界全体の「標準的な水準」に近い話です。平均年齢が高い業界の中にいると、徐々にこの感覚が麻痺してきます。外の世界を知っている人が入ってくると、初めて「ここまで遅れていたのか」と気づく——これが税理士業界のDXの現実です。
なぜここまでDXが遅れているのか?構造的な原因
原因① 業界の平均年齢が高い
日本税理士会連合会のデータによると、税理士登録者の約7割が50代以上です。若手税理士の割合は増えていますが、業界全体の意思決定を握るのはまだ高齢層が中心です。所長が変わらない限りシステムは変わらない——個人事務所の多くはまさにこの構造です。
原因② 顧客(中小企業)もDX対応が遅れている
税理士の顧客である中小企業は、ITリテラシーが多様です。「通帳のコピーをFAXで送る」「領収書を封筒に入れて郵送する」という顧客がまだ多数います。顧客に合わせてFAX・紙対応せざるを得ない以上、事務所側だけがデジタル化しても業務が回りません。
原因③ 「今まで通りで問題ない」が正当化される
税理士事務所は、売上が安定しやすいビジネスモデルです。顧問契約で毎月固定の報酬が入るため、「今のやり方で黒字が出ている」という状態が変化への動機を奪います。DXに投資しなくても事業が続くため、変わる必要性が生まれにくい。
原因④ セキュリティの言い訳が使われやすい
税務情報は高度な機密情報です。「クラウドに上げるのは怖い」「セキュリティリスクがある」という理由でデジタル化を拒む税理士は多い。この主張は一定の合理性がありますが、実際には適切なセキュリティ管理のもとでクラウド化している法人が増えており、「セキュリティが理由」は多くの場合、変化したくない心理の合理化になっています。
DXの遅れが「若手税理士のチャンス」になる逆説
ここで重要な視点があります。税理士業界のDXの遅れは、普通のITリテラシーを持つ20〜30代にとって巨大なチャンスでもあります。
「申告書の電子データ化」「チャットツールの導入」「クラウド会計の提案」——これらは他業種では当たり前のことですが、税理士業界の中では「価値ある提案」として高く評価されます。他業種でIT系の業務経験がある人が税理士事務所に入るだけで、「デジタル化の旗振り役」として存在感を示せます。
特に以下のスキルは、税理士業界では希少価値があります。
- クラウド会計(freee/MFクラウド)の操作・導入経験:会計ソフトのクラウド移行を主導できる人材は即戦力
- 社内ツールの整備経験:Slack/Chatwork/Notionなどの業務効率化ツールを導入・運用した経験
- Excel・スプレッドシートの高度活用:マクロ・関数の活用で業務を自動化できると重宝される
- RPA・AI活用の知識:定型業務の自動化提案ができる人材はDX推進リーダーになれる
逆説的ですが、遅れている業界に入る方が「普通のこと」で差別化できるのです。IT企業やコンサルでは当たり前のスキルが、税理士業界では「すごい人」になれる。これは若手にとってはキャリア加速のチャンスです。
転職先のDX度を見極める方法
確認ポイント | DXが遅れている法人 | DXが進んでいる法人 |
|---|---|---|
内部連絡ツール | 電話・FAX・メール | Slack/Teams/Chatwork |
会計ソフト | インストール型(弥生等) | クラウド型(freee/MFクラウド) |
顧客との資料共有 | 紙・FAX・メール添付 | クラウドストレージ・ポータル |
リモートワーク対応 | 「出社が原則」 | 一部または全面リモート可 |
勤怠管理 | タイムカード・Excel | クラウド勤怠システム |
面接で確認する質問
- 「所内の連絡はどんなツールを使っていますか?」
- 「顧客との資料のやり取りは電子化できていますか?」
- 「今後のDX化・IT化の計画はありますか?」
「基本メール・電話です」という答えが来たら、DXが遅れているシグナルです。「Slackを使っています」「クラウド会計を全クライアントに提案しています」という法人は、変化に積極的な職場です。
DXの遅い職場に留まり続けるリスク
DXが遅れた職場に長くいると、本人のスキルも時代遅れになっていきます。「紙とFAXでしか仕事の経験がない」「クラウド会計を使ったことがない」という状態が続くと、転職市場での競争力が下がります。AI・デジタル化が加速する時代、デジタルスキルの有無はキャリアの生存に直結します。
税理士業界のDXの遅れは、現実として存在します。ただし、その遅れを嘆くより「DXが進んでいる職場を選ぶ」もしくは「自分がDXを推進する側になる」という姿勢でいることが、今後の税理士キャリアを守る最善の戦略です。
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