筆者は準大手税理士法人で数年間働いた後、大手コンサルティングファームに転職しました。年収は500万円から700万円へ。金額だけ見れば順調なステップアップですが、この転職には「税務の世界だけでは見えないものがある」という強い渇望がありました。
この記事では、税理士法人からコンサルへの転職がどんなものだったか、なぜその道を選んだのか、実際に飛び込んでみてどうだったのかを正直に書きます。
税理士法人で感じた「ここまでしか関われない」というもどかしさ
税理士法人での仕事自体は充実していました。法人税の申告、組織再編の税務、そして税務デューデリジェンス(税務DD)。特に税務DDの仕事は面白く、M&A案件に関わるたびにワクワクしていました。
ただ、税務DDはあくまでM&Aプロセスの一部です。ディールの全体像——バリュエーション、ストラクチャリング、PMI(統合プロセス)——を見渡すと、筆者が関われるのはほんの一角に過ぎませんでした。
「税務リスクは洗い出しました。あとはよろしくお願いします」で終わる仕事に、次第にもどかしさを感じるようになりました。税務DDだけでなく、ディール全体に関わりたい。この思いが、コンサルへの転職を決意させた最大の理由です。
「もっと上流から関わりたい」は贅沢な悩みか
当時、先輩にこの話をしたら「税務を極めた方がいいんじゃないか」と言われました。確かにその通りかもしれません。税務のスペシャリストとして深堀りしていく道もあった。
でも筆者は、専門性を「深める」よりも「広げる」方向に興味がありました。税務の知識をベースにしながら、ビジネス全体を俯瞰できるようになりたい。これは贅沢な悩みかもしれませんが、30歳前後でその方向に舵を切れたのは結果的に正解だったと思っています。
税理士法人で培った「自走力」がコンサルで活きた
転職活動を始める前、筆者は「コンサルで通用するのか」と不安でした。コンサルティングファームと言えば、高学歴のエリートが集まるイメージ。税理士法人出身の自分がやっていけるのか、と。
しかし、実際に入ってみると、税理士法人で身につけた力がそのまま通用する場面が多かったのです。
税理士法人で身につけた力 | コンサルでの活かし方 |
|---|---|
条文・通達を自分で調べる力 | 未知の論点を自力でリサーチし、仮説を立てる |
クライアントへの説明力 | 経営層へのプレゼンテーション |
期限に追われる中での成果物作成 | タイトなデッドラインでのデリバリー |
税務の専門知識 | M&A案件での税務アドバイス(社内で頼られる) |
特に大きかったのは、税理士法人で叩き込まれた「自走力」です。分からないことがあったら、まず自分で調べる。条文を引く、通達を読む、判例を探す。この習慣は、コンサルでも全く同じでした。むしろ、コンサルに新卒で入った人よりも「自分で調べて解決する力」は強かったと感じます。
税理士法人での経験は決して無駄にはなりません。そこで培った自走力は、どんな環境でも通用する汎用的なスキルです。
転職活動で感じたこと
税理士資格はコンサル転職で武器になるか
結論から言うと、武器になります。ただし、「税理士です」だけでは不十分。大事なのは「税務の知識を使って何をしたいか」を明確に語れるかどうかです。
筆者の場合は「税務DDの経験を活かして、M&Aのディール全体にコミットしたい」と伝えました。面接では、具体的に関わった案件(もちろん守秘義務の範囲内で)の話をしながら、税務だけでなくビジネス全体に関心があることをアピールしました。
年収交渉の実際
コンサルティングファームへの転職では、年収500万円から700万円になりました。税理士法人時代の年収をベースに、コンサルファーム側のグレード基準で提示された金額です。
正直、もっと交渉すればもう少し上がったかもしれません。でも当時の筆者は、年収よりも「ディール全体に関わる経験を積める環境」を優先していました。結果的に、この選択は正しかったと思います。
コンサルに入って見えた景色
ディールの全体像が見えるようになった
コンサルに入って最も大きかった変化は、M&Aの全体像が見えるようになったことです。税理士法人時代は「税務リスク」という一つのピースしか見えていませんでしたが、コンサルではバリュエーション、ビジネスDD、法務DD、そしてPMIまで、ディールの全工程に関与します。
税務DDだけをやっていた頃には分からなかった、「なぜこのディールが成立するのか」「買い手は何を求めているのか」という本質的な部分が理解できるようになりました。
一方でコンサル特有のきつさもある
コンサルの世界は華やかに見えるかもしれませんが、実態はかなりハードです。クライアントの期待値は高く、「知りません」は許されない。プロジェクトの立ち上がりから数日で大量のインプットをして、すぐにアウトプットを求められる。
税理士法人時代は繁忙期とそれ以外で緩急がありましたが、コンサルはプロジェクトベースなので、忙しさの波が読みにくい。複数のプロジェクトが重なると、物理的に時間が足りなくなることもありました。
また、税理士法人と違って「税務のプロ」としてだけでは評価されません。クライアントとのコミュニケーション力、プレゼン力、プロジェクト管理能力——求められるスキルの幅が一気に広がります。最初の半年は正直、毎日が必死でした。
税理士法人→コンサルは「スムーズな転職」だった
意外かもしれませんが、税理士法人からコンサルへの転職は思っていたよりスムーズでした。その理由は明確で、税理士法人で鍛えられた「自走力」と「専門性」がコンサルでそのまま通用したからです。
税理士法人で「先輩の手を借りずに自分で調べて解決する」訓練を積んでいた筆者は、コンサルの「自分で考えて動け」というカルチャーに最初から馴染むことができました。
もし「税理士法人からコンサルは難しいのでは」と思っている方がいたら、安心してください。税理士法人でしっかり実務を積んだ人なら、コンサルでも十分にやっていけます。
この転職を考えている人へのアドバイス
税務DDの経験があるなら強い
税務DDの経験は、コンサル転職において非常に強力な武器になります。M&Aの実務に触れていること自体が評価されますし、税務DDのプロセスはコンサルのプロジェクトワークと親和性が高い。
「なぜコンサルなのか」を明確にしておく
面接では必ず「なぜ税理士法人ではダメなのか」を聞かれます。「年収を上げたい」だけでは通りません。筆者のように「ディール全体に関わりたい」「税務の知識をビジネス全体に活かしたい」など、前向きな理由を自分の言葉で語れるように準備しておいてください。
年収だけで判断しない
コンサルは確かに年収が高いですが、その分だけ求められるレベルも高い。「年収が上がるから」だけの理由で飛び込むと、入ってから苦労する可能性があります。大事なのは「何を得たいか」を明確にすることです。
筆者の場合は、税務の枠を超えてビジネス全体を理解する力を身につけたかった。そしてコンサルに入ったことで、その目標は確実に達成できました。次のステップとして事業会社の当事者側に移る決断にもつながっています。
税務の専門性は、あなたが思っている以上に汎用性の高い武器です。その武器を持って、どこまで行けるか試してみる価値は十分にあると思います。
