「税理士の退職金ってちゃんと出るの?」——転職や就職を考える際に、意外と見落とされがちなのが退職金の問題です。
筆者は4社を渡り歩いてきましたが、退職金制度は法人ごとにまったく異なりました。制度自体がない事務所もあれば、確定拠出年金(DC)を導入している法人もある。この記事では、法人タイプ別の退職金事情と、税理士が考えるべき老後資産形成について解説します。
税理士業界の退職金制度の現状
結論から言うと、税理士業界全体として退職金制度は充実しているとは言えないのが実情です。とくに中小の個人事務所では退職金制度自体がないケースも多い。
法人タイプ | 退職金制度 | 導入率(目安) | 相場(勤続10年) |
|---|---|---|---|
Big4税理士法人 | 確定拠出年金(DC)が主流 | ほぼ100% | 300〜500万円相当 |
準大手税理士法人 | DC or 中退共 | 70〜80% | 200〜400万円 |
中堅事務所 | 中退共 or なし | 50〜60% | 100〜250万円 |
個人事務所 | なし or 中退共 | 30〜40% | 50〜150万円 |
上場企業 | DC+退職一時金の併用 | ほぼ100% | 500〜800万円 |
上場企業と個人事務所では、勤続10年で数百万円の差が出る可能性があります。年収だけでなく退職金を含めた生涯報酬で比較することが重要です。
Big4税理士法人の退職金制度
Big4は確定拠出年金(DC)を採用しているケースがほとんどです。会社が毎月一定額を拠出し、従業員が自分で運用先を選ぶ仕組みです。
Big4の DC拠出額の目安
職位 | 月額拠出額(目安) | 年間拠出額 | 10年累計(運用益除く) |
|---|---|---|---|
スタッフ | 15,000〜25,000円 | 18〜30万円 | 180〜300万円 |
シニアスタッフ | 20,000〜35,000円 | 24〜42万円 | 240〜420万円 |
マネージャー | 30,000〜50,000円 | 36〜60万円 | 360〜600万円 |
DCの利点は転職しても持ち運べること。税理士のように転職が多いキャリアには相性の良い制度です。
準大手税理士法人の退職金制度
準大手は法人によって対応が分かれます。DCを導入している法人もあれば、中小企業退職金共済(中退共)を利用しているところもある。
筆者が在籍していた準大手では中退共が採用されていました。掛金は月額1〜2万円程度で、5年間の在籍で受け取った退職金は70万円ほど。正直なところ、老後資産としては心もとない金額でした。
中堅・個人事務所の退職金制度
中堅以下の事務所になると、そもそも退職金制度がないケースが珍しくありません。
- 中堅事務所:中退共を導入しているところが半数程度。掛金は月5,000〜15,000円が多い
- 個人事務所:退職金制度なしが過半数。あっても中退共で月5,000円程度のケースが多い
個人事務所で10年勤めても退職金が50万円以下、というのは珍しい話ではありません。
上場企業の退職金制度
筆者が現在在籍している上場企業では、確定拠出年金(DC)と退職一時金の併用が採用されています。上場企業の退職金制度は税理士業界の水準と比較すると格段に充実しています。
比較項目 | 税理士法人(準大手) | 上場企業 |
|---|---|---|
制度 | 中退共 or DC | DC+退職一時金 |
月額拠出/積立 | 1〜2万円 | 3〜5万円 |
勤続10年の目安 | 100〜300万円 | 500〜800万円 |
勤続20年の目安 | 200〜600万円 | 1,000〜1,500万円 |
退職金だけで500万円以上の差が出る可能性があることを考えると、年収の額面だけで転職先を比較するのは危険だと実感します。
退職金がない場合の老後資産形成
退職金制度が不十分な場合でも、自分で資産を作る方法はいくつかあります。
税理士が活用すべき制度
制度 | 年間拠出上限 | 税制メリット | おすすめ度 |
|---|---|---|---|
iDeCo(個人型DC) | 14.4〜81.6万円(被保険者区分による) | 掛金が全額所得控除 | 最優先 |
つみたてNISA(新NISA) | 年間120万円(つみたて枠) | 運用益が非課税 | iDeCoの次に |
小規模企業共済(独立した場合) | 年間84万円 | 掛金が全額所得控除 | 独立者には必須 |
とくにiDeCoは税理士なら誰でも加入でき、掛金が全額所得控除になるため、節税効果が非常に高い。退職金制度がない事務所に勤めているなら、最優先で始めるべきです。
独立した場合の退職金対策
独立開業した税理士は「小規模企業共済」が実質的な退職金になります。月額最大7万円、年間84万円を全額所得控除できるため、税理士にとっては最もコスパの高い制度のひとつです。
転職時に退職金を確認するポイント
- 退職金制度の有無と種類(DC、中退共、退職一時金、なし)
- 会社の拠出額(月額いくら積み立てられるか)
- 勤続年数による受給額の目安
- DCの場合、マッチング拠出ができるか(自分で上乗せできるか)
- 前職のDCからの移換手続き
とくにDCのマッチング拠出は、会社の拠出額に加えて自分でも掛金を上乗せできる制度で、税制メリットが大きい。導入している法人であれば積極的に活用しましょう。
まとめ:退職金も含めた「生涯報酬」で比較しよう
年収700万円で退職金なしの事務所と、年収650万円で退職金制度が充実している上場企業。20年のスパンで見たら、後者の方が生涯報酬は高くなります。
筆者自身、4社の退職金制度の違いを身をもって経験してきたからこそ言えるのは、退職金は「見えない年収」であり、転職先選びの重要な判断材料だということ。目先の年収だけでなく、退職金・福利厚生を含めた総合的な待遇で比較する習慣をつけてください。