「残業代はみなし残業に含まれています」——会計事務所の求人でよく見かけるこのフレーズ、正しく理解できていますか?
筆者は4社を経験する中で、みなし残業30時間の事務所、固定残業代なしの法人、そして残業代が全額支給される上場企業と、さまざまな残業代の仕組みを体感してきました。この記事では、税理士業界の残業代事情と、転職時に確認すべきポイントを解説します。
税理士業界の残業代の仕組み
税理士業界で採用されている残業代の仕組みは、主に3パターンです。
残業代タイプ | 仕組み | 実態 | 多い法人タイプ |
|---|---|---|---|
みなし残業(固定残業代) | 月●時間分の残業代を固定で支給 | 超過分は追加支給が原則 | 中小〜準大手 |
実費精算 | 実際の残業時間に応じて支給 | 最も分かりやすい | Big4・上場企業 |
管理監督者扱い | 残業代なし | マネージャー以上に適用 | Big4・大手 |
みなし残業(固定残業代)の実態
中小〜準大手の事務所で最も多いのが、みなし残業制度です。典型的なのは「月30時間分の固定残業代を含む」というパターン。
見落としがちなポイント
みなし残業には法律上の重要なルールがあります。
ルール | 内容 | 違反時のリスク |
|---|---|---|
超過分の支払い義務 | みなし時間を超えた分は追加支給が必要 | 未払い残業代の請求対象 |
基本給との区分 | 基本給と固定残業代は明確に分けて表示 | 固定残業代が無効になるリスク |
みなし時間の上限 | 月45時間を超えるみなしは問題視される | 36協定違反のリスク |
たとえば「月給35万円(みなし残業40時間分含む)」という求人があった場合、基本給がいくらで固定残業代がいくらなのかが明記されていなければ、まずその時点で注意が必要です。
筆者が経験したみなし残業の実態
筆者が在籍した準大手税理士法人では、みなし残業30時間が設定されていました。閑散期は30時間に収まることもありましたが、繁忙期(1〜3月、決算期)は60〜80時間の残業になることが普通でした。
超過分は申請すれば支給される仕組みでしたが、実際には「みなし内に収めるのが当然」という空気があり、申請しづらい雰囲気がありました。これは業界の悪しき慣習のひとつだと思います。
繁忙期の残業実態
税理士業界の繁忙期は、一般企業の感覚とはまったく異なります。
時期 | 業務内容 | 平均残業時間(目安) | 忙しさ |
|---|---|---|---|
1〜3月 | 確定申告 | 60〜80h/月 | 最繁忙期 |
4〜5月 | 3月決算法人の申告 | 40〜60h/月 | 繁忙期 |
6〜8月 | 閑散期 | 10〜30h/月 | 比較的余裕 |
9〜11月 | 中間申告・年末調整準備 | 30〜50h/月 | やや忙しい |
12月 | 年末調整 | 40〜60h/月 | 繁忙期 |
年間を通して見ると、月平均40時間前後というのが多くの事務所の実態でしょう。ただし、繁忙期に80時間を超える事務所では、みなし残業30時間では到底カバーできないのが現実です。
残業代に関する「赤信号」求人の見分け方
危険な求人の特徴
- 「みなし残業60時間」:月60時間を前提にしている時点で労働環境に問題がある可能性が高い
- 「年俸制のため残業代なし」:年俸制でも残業代の支払い義務は発生する(管理監督者を除く)
- 「裁量労働制」を謳う事務所:税理士業務に裁量労働制を適用できるケースは限定的
- 基本給と固定残業代の内訳が不明:意図的に隠している可能性
残業代の有利な法人タイプ
法人タイプ | 残業代の仕組み | 実質的な時給への影響 |
|---|---|---|
Big4 | 実費精算(マネージャー未満) | 残業すればするほど手取りが増える |
準大手 | みなし+超過分支給 | 超過申請の文化次第 |
中堅 | みなし(超過分の扱い不透明) | 事務所次第で大きく異なる |
上場企業 | 実費精算が基本 | コンプライアンス遵守で安心 |
筆者が現在在籍している上場企業は実費精算です。上場企業はコンプライアンスの観点から残業代の未払いリスクを避ける傾向が強く、サービス残業はほぼ発生しません。
転職時の残業代交渉法
面接で確認すべき3つの質問
- 「みなし残業の設定時間と、超過分の支給実績を教えてください」——制度と実態の乖離を確認
- 「繁忙期の平均残業時間はどのくらいですか」——みなし時間との差分を把握
- 「残業時間の申請・承認フローはどうなっていますか」——申請しやすい文化かどうか
直接聞きにくい場合は、転職エージェント経由で確認してもらうのが効果的です。会計業界特化のエージェントであれば、各事務所の残業事情にも詳しいはずです。
まとめ:残業代の仕組みを理解して「実質年収」を見極めよう
額面の年収が同じでも、残業代の仕組みが違えば実質的な時給は大きく変わります。基本給500万円で残業代が全額支給される職場と、基本給450万円でみなし残業60時間を含む職場では、前者の方が圧倒的に良い条件です。
転職を考える際は、年収の数字だけでなく「残業代の仕組み」「繁忙期の実態」「超過分の支給実績」まで確認してください。筆者が4社を経験して断言できるのは、残業代の透明性が高い法人ほど、総じて働きやすいということです。