税理士の仕事の中でも、M&A税務は最も年収が高く、キャリアの選択肢が広い分野の一つです。しかし、「M&A税務って具体的に何をするの?」「どうすればM&A税務のキャリアに進めるの?」と疑問に思っている方は多いのではないでしょうか。
筆者は準大手税理士法人でM&A関連の税務DD(デューデリジェンス)に携わり、その後コンサルティングファームに移ってディール全体に関わるようになりました。この経験をもとに、M&A税務チームの実態をお伝えします。
M&A税務チームとは
M&A税務チームは、企業のM&A(合併・買収)に関する税務面のアドバイスを専門とするチームです。Big4税理士法人や一部の準大手法人に設置されており、通常の法人税務チームとは独立した組織として運営されていることが多いです。
M&A税務チームの主な業務
- 税務デューデリジェンス(税務DD):買収対象企業の税務リスクを調査・報告する
- ストラクチャリング:M&Aスキームの税務上の最適化を図る
- 組織再編税制のアドバイス:合併・分割・株式交換等の税務処理を設計する
- 税務意見書の作成:組織再編の適格性や税務上の取り扱いについて法的意見を出す
- PMI支援:M&A後の税務統合をサポートする
- タックスプランニング:グループ全体の税務効率を最適化する
筆者が税理士法人時代に携わっていたのは主に税務DDです。対象会社に入り込んで、過去3〜5年分の税務申告書を精査し、未払税金や税務ポジションのリスクを洗い出す作業です。地味に思えるかもしれませんが、ここで見つけた税務リスクがディール全体の価格交渉に直結することもあり、非常にやりがいのある仕事でした。
M&A税務チームの年収水準
M&A税務は専門性が高く人材も限られるため、通常の法人税務より年収水準が高いのが特徴です。
ポジション | M&A税務の年収 | 一般法人税務の年収 | 差額 |
|---|---|---|---|
スタッフ(1-3年) | 500〜700万円 | 450〜600万円 | +50〜100万円 |
シニア(4-6年) | 700〜900万円 | 600〜800万円 | +50〜100万円 |
マネージャー(7-10年) | 950〜1,200万円 | 800〜1,000万円 | +100〜200万円 |
シニアマネージャー以上 | 1,200〜1,600万円 | 1,000〜1,300万円 | +200〜300万円 |
特にマネージャー以上になると差が顕著になります。M&A税務のマネージャーは大型案件のプロジェクトマネジメントも担うため、その責任と専門性に見合った報酬が設定されています。
年収が高い理由
M&A税務の年収が高い背景には3つの理由があります。
- 専門性の希少性:M&A税務を扱える税理士は限られており、需要に対して供給が追いついていない
- 案件単価の高さ:M&A案件の税務アドバイザリーフィーは1案件で数百万〜数千万円になることもある
- クライアントの支払い能力:M&Aを行う企業は資金力があるため、質の高い税務アドバイスに対して適正な報酬を支払う
M&A税務チームで必要なスキル
必須スキル
- 法人税法の深い理解:特に組織再編税制(法人税法第62条の2以降)は必須
- 会計知識:連結会計、企業結合会計の理解が求められる
- 論理的思考力:条文解釈と事実認定を論理的に行う能力
- プロジェクトマネジメント力:複数のワークストリームを同時に管理する能力
あると強いスキル
- 英語力:クロスボーダーM&Aでは英語でのコミュニケーションが必須
- ファイナンスの知識:バリュエーションやDCF法の基本的な理解
- コミュニケーション力:クライアントの経営層に分かりやすく説明する力
筆者の経験では、最も重要なのは「自分で調べて考える力(自走力)」です。M&A案件では前例のない論点が頻繁に出てきます。過去の裁決事例や通達を自分で調べ、自分なりの見解を持った上で上司やクライアントと議論できる力がなければ、M&A税務の世界では生き残れません。
これは筆者が税理士法人時代に最も鍛えられた能力であり、コンサルに移ってからも事業会社に移ってからも、ずっと活きている基礎力です。
M&A税務チームがある主な法人
Big4税理士法人
4法人すべてにM&A税務の専門チームがあります。それぞれの特徴は以下の通りです。
法人 | M&A税務の特徴 |
|---|---|
デロイト トーマツ | 案件数が最も多い。大型案件の実績が豊富 |
PwC | クロスボーダーM&Aに強み。グローバルネットワークを活用 |
EY | 移転価格とM&A税務の連携が強い |
KPMG | 組織再編税制のアドバイスで高い評価。ストラクチャリングに定評 |
準大手・中堅法人
Big4以外にもM&A税務チームを持つ法人があります。準大手法人のM&A税務チームは少人数のことが多いですが、その分若手でも早い段階からM&A案件に携われるというメリットがあります。
筆者が在籍していた準大手法人でも、入社2年目から税務DDに参加する機会をもらえました。Big4では3〜4年目からようやく本格的に関われるケースも多い中、準大手で早期に経験を積めたことは筆者のキャリアにとって大きなプラスでした。
M&A税務からのキャリアパス
M&A税務の経験は、税理士のキャリアの中でも最も転職市場で評価される経歴の一つです。
- コンサルティングファーム:FASやM&Aアドバイザリーへの転職。筆者はこのルートを選んだ
- 投資銀行・PEファンド:税務の専門家としてディールチームに参加
- 事業会社のM&A部門:企業内で買収・売却の意思決定に関わる
- 独立開業:M&A特化型の税理士事務所として高単価の案件を受ける
筆者自身、税務DDの経験がなければコンサルへの転職は実現しなかったと思います。税務DDは「M&Aの入り口」であり、そこから先のキャリアを大きく広げてくれるスキルセットです。
税務DDだけでは物足りなくなる瞬間
正直に言うと、筆者は税務DDを続けるうちに「M&Aの一部分にしか関われない」というもどかしさを感じるようになりました。税務DDのレポートを渡した後、ディールがどう進んだのか、最終的にどうなったのかが見えないまま次の案件に移る。その繰り返しに、「ディール全体に関わりたい」という欲求が芽生えたのです。
同じような感覚を持っている方は、M&A税務をステップとしてコンサルや事業会社への転職を視野に入れると、キャリアの満足度は高くなるかもしれません。
まとめ:M&A税務は税理士の「掛け算キャリア」の起点
M&A税務は、税理士の専門性を最も高く評価してもらえる分野の一つであり、キャリアの選択肢を大きく広げてくれる経験です。年収面でも通常の法人税務より高水準であり、転職市場での評価も非常に高い。
M&A税務に興味がある方は、まずはBig4や準大手のM&A税務チームへの応募を検討してみてください。税務DDの経験は、その先のキャリアで必ず武器になります。
